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グローバル化にともなうアフリカ地域研究パラダイム再編のためのネットワーク形成 報告書

 

訾彦訚(シ ゲンギン)

 
 
派遣期間

2016/3/29-2016/7/3; 2016/7/13-2016/8/15; 2016/8/22-2016/9/1
南アフリカ,ケープタウン大学,アフリカ言語多様性研究センター

2016/7/4-2016/7/12
カナダ,ブリティッシュ・コロンビア大学

2016/8/16-21
ケニア,アガ・カーン大学

2016/9/2-27; 2016/10/1-2017/2/16
ドイツ,ケルン大学,ケルン・グローバルサウス研究センター

2016/9/28-30
ドイツ,ゲーテ大学

 

 

1.研究課題について

南部アフリカにおけるアジア人コミュニティの形成に関する共時的・通時的な分析を行うため、南部アフリカの中国人商人をおもな対象として,次の3つの領域において研究を進めてきた。①中国人商人と現地アシスタントの雇用関係②アフリカのローカルな視点からみた中国イメージ③南部アフリカにおけるエスニック・グループ間雇用関係。平成28 年度の派遣目的は,南アフリカとドイツで関心を共有する研究者たちと議論を行うことによって、エスニック・グループ間関係という観点から上記の研究を理論的に深化させることであった。

 

2.派遣の内容

(1)南アフリカ派遣

平成28 年3月29 日から9 月1 日にかけて,おもに南アフリカのケープタウン大学を訪問して研究活動を行った。滞在する間はケープタウン大学の人類学・言語学部の研究者と学生と意見交換を行った。Francis Nyamnjoh教授と博士論文の出版について打ち合わせを行ったり、人類学部のセミナーに出席したりした。人類学部のセミナーで自分の研究について発表し、大学院生たちと刺激のある議論を行った。5月にはStellenbosch 大学で開催されたMIGRATION AND AGENCY IN A GLOBALISING WORLDというワークショップに参加し、アジアとアフリカの移民問題を専門にした研究者たちと交流を行った。そして、エスニック・グループ間雇用関係の予備調査として、中国大手企業Hisense Groupの工場を訪問した。人事と生産部門の担当者たちとの交流の中からこれからの研究課題を見つけた。また、ボツワナ大学のMonageng Mogalakwe准教授と共同で“Decoding relationships between Chinese merchants and Batswana shop assistants: The Case of China Shops in Gaborone”というタイトルでジャーナル論文を執筆した。

滞在中は中国のSun Yat-sen大学や中国中央民族大学のアフリカ地域研究者たちとミニ研究会を行い、中国の大学のアフリカ研究動向を把握することができた。

 

写真1.ケープタウン大学キャンパス

 

写真2. Hisenseで勉強会の参加

 

(2)カナダ・ケニア派遣

平成28 年7月4日から12日にかけてカナダ,ブリティッシュ・コロンビア大学で開催されたISSCO学会(International Society for the Study of Chinese Overseas)で“Unveiling the Mask of Batswana Customers: We Don’t Like China Shops But We Still Need Fong Kong Goods”というタイトルで研究成果を発表した。会議後はブリティッシュ・コロンビア大学の研究者たちとバンクーバー地域のアジア移民問題について議論を行った。

 

写真3. ISSCO学会で発表する様子

 

そして、平成28 年8月16日から21日にかけてケニア,アガ・カーン大学で開催されたCA/AC(Chinese in Africa/Africans in China Conference)学会で“China shop as an unauthorized nation brand in Botswana” というタイトルで研究成果を発表した。CA/AC学会は中国・アフリカ関係の研究者がたくさん集まってきた。同じ領域の若手研究者たちと交流することもできて、研究視野が広まった。

 

写真4. CA/AC学会の様子

 

(3)ドイツ派遣

平成28年9月2日から平成29年2月16日にかけてドイツ,ケルン大学のグローバルサウス研究センターに訪問した。滞在中は博士論文の出版の準備をしたり、地理学部の研究者たちと中国企業のアフリカ進出に関して議論を行ったりした。

また、9月28から30日まではゲーテ大学で開催されたAfrican-Asian Encounters (III) Afrasian Transformations: Beyond Grand Narrativesという学会に参加し,“Chinese Investment in Africa: Ground Level Interaction Matters”というタイトルで研究発表を行った。

2017年1月12日と13日はケルン大学のGSSC(グローバルサウス研究センター)が主催した“Africa-China: Business and Migration”ワークショップに参加し、“Decoding Intergroup Relations in Employment in Southern Africa”というタイトルで研究計画を発表した。参加者と討議者から建設的な意見をたくさんいただいた。

 

3.派遣中の印象に残った経験や体験

今まで私は南アフリカの治安に対して恐怖心を抱いていた。今回ケープタウンの滞在を通して、南アフリカの治安問題についての理解を深めることができた。ホームステイのファミリーからバスで乗合った乗客まで皆親切で「外国人嫌い」ということは感じなかった。その一方、強盗や泥棒の事件を頻繁に耳にしたため、毎日警戒心を持って過ごした。その中、現地人の優しさに感動したこともあった。ある週末の夕方にStellenboschからケープタウンに列車で戻ることになった。列車は時刻表に通りに来たし、乗客は様々な人が行ったが皆親切にしてくれた。その時、私の安全を心配してくれた現地の女性がいて、私が列車から降りて安全に家についたかどうかという確認の電話までかけてくれた。現地の人も皆治安のことを一番大きな社会問題として認識しているようだった。外国人(アジア人)に対しての思いやりと外国人を受け入れる姿勢は私の予想と異なり、このことについては今後の研究を通して問いかけてみたいと思う。

 

4.目的の達成度や反省点

平成28 年度は,今まで培ったアジア・アフリカを専門とする研究団体や研究者との関係をさらに強化した。さらに南アフリカとドイツの研究機関や個人の相互のリンクをつなぐことを通じて,今後の研究課題を見つけることができた。そして,今まで行った研究活動の成果を世界に向けて発信していくことを狙いとして,報告者の研究に関連する国際学会に積極的に参加し,研究発表を行うことができた。また、本の出版とアフリカ研究機関の研究者との共同執筆を通して、研究成果を発信することができた。

反省点として、派遣の前半の南アフリカの滞在中は多くの学会に参加したため、じっくり本を読むことができなかった。学会で研究者たちと意見を交わすことは大事だが、その後は読書と研究を理論的に深化させることにさらに専念できたらより効果的だったかもしれないと思った。

 

5.今後の派遣における課題と目標

ケープタウンにおける若者の就職難が近年注目されている。中国大手企業Hisense Groupの人事担当者から現地の労働者を管理することで苦労していることが分かった。現地の労働者と中国管理層の間は労働倫理について摩擦が多いと聞いた。そして、現地労働者の麻薬使用も彼らのパフォーマンスを妨げる原因の一つとなっているようだ。報告者の研究は今まで南部アフリカにおける外国人を対象に分析を行ってきた。しかし、南部アフリカのエスニック・グループ間関係を探るにはアフリカ現地の社会問題と課題をよく理解する必要があると深く感じた。これからは、エスニック・グループ間関係に関する資料を収集しながら、南部アフリカにおける社会問題、人種問題に関する文献を把握するつもりである。