南部アフリカにおける「民族的なもの」の現代的展開
京都大学
アフリカ地域研究資料センター・特任准教授
丸山 淳子
派遣先
-Centre for African Language Diversity, University of Cape Town
-Mbabane and its surrounding area, Swaziland
-Ghanzi district, Botswana
-Tsumkwe district, Namibia
1. 研究課題について
本研究は、ボツワナのサン社会、南アフリカのサン社会、スワジランドのスワジ社会を対象としてI.土地権回復運動 II.伝統的政治代表者 III.民族文化観光などをめぐる現場で「伝統文化」や「民族的なもの」がいかに表出し、また再編されているのかを明らかにするものである。またそれによって地域社会の集団関係や政治参加、生業活動のありかたにどのような変化が生じているのかを考察することを目指している。それをとおして、南部アフリカのもつ歴史的背景や政治経済的状況のなかで共通して現れる「民族的なもの」の特質と、それぞれの対象コミュニティの特異性を国家形態や地域社会の中の位置づけの違いに注目して明確にしたい。
2. 派遣の内容
南アフリカ:ケープタウン大学の研究者らと議論を深めるとともに、Centre for African Language Diversityのブレンジンガー教授から、学術研究によって得られた知見をサンのコミュニティに役立てる実践事例の多くを学んだ。またケープタウンおよびその周辺地域のコイサン系の人々によって企画された集会などに参加して、彼らの歴史、アイデンティティや民族意識などについての聞き取りを実施した。また南部アフリカのサンの土地問題を扱うNGOや観光開発に取り組む団体などを訪問し、その活動内容についてインタビューを行った。
スワジランド:伝統的権威と文化観光に関する予備的な調査を実施した。住民参加型で実施されている文化観光の現場を訪れ、伝統文化がどのように観光資源化されているのかを調べるとともに、スワジの文化儀礼として有名なウムタンガ(リード・ダンス)に参加し、そのすべての行程を記録した。またスワジランドで活躍する大学関係者やコンサルタントとも学術ネットワークを築いた。
ボツワナ:サンの言語や土地、観光などに関わるNGOや民間団体を訪れ、その活動について聞き取りを行った。また観光がサンの生計活動に与える影響を明らかにするために、長年調査を続けている集落で参与観察とインタビューを実施した。
ナミビア:南部アフリカで活発化している「ブッシュマン(サン)観光」の全体像を把握するために、ナミビアのサンがかかわる観光活動についての現地調査を実施した。
3. 派遣中の印象に残った経験や体験
今回の調査でもっとも印象に残ったのは、スワジランド訪問である。スワジランドはスワジの王による絶対君主制をとる国家で、特徴的な国家形成の歴史を持っている。この歴史を背景に、伝統的な儀礼やそれに関連する文化活動などが、スワジの人々の日常生活においても、観光においても重要な役割を持っていることが明らかになった。また調査の過程でかかわった地元の人々も、大学関係者も、本研究に対して非常に協力的であった。
また南アフリカ、ボツワナ、ナミビアのいずれにおいても、住民が参加する「ブッシュマン観光」が非常に活発化してきていることがわかったことも興味深いことであった。
4. 目的の達成度や反省点
今回初めて訪れたスワジランドでは、調査地となりうる場所をいくつか選定することができ、そこに暮らす人々ともよい関係を築くことができた。次回のスワジランド訪問の際に、さらに調査を進める準備は整ったといえる。また今回の調査で、サンの文化観光に関する論文を執筆するのに十分な資料を得ることができた。調査はほぼ計画通りに実行できたが、南アフリカでの調査に関しては、途中で怪我をしたために、十分には進めることができなかった。
5. 今後の派遣における課題と目標
今回の調査で収集した資料に基づき、同僚と議論を深めながら、サンの文化観光についての論文を執筆することが、次回のカナダへの派遣期間中に実施すべきことである。またマギル大学において、カナダの先住民状況にかかわる人類学的研究から学ぶことで、アフリカと北米の先住民ネットワークや、アフリカにおける社会運動の特徴を理解することに努めたい。
ウムタンガ儀礼のクライマックスシーン。少女たちがリード(葦)を女王に届ける(スワジランド)
「伝統的なダンス」を披露するサンの人々(ボツワナ)