南部アフリカにおける「民族的なもの」の現代的展開
京都大学
アフリカ地域研究資料センター・特任准教授
丸山 淳子
派遣先
-The Global South Studies Center, University of Cologne
– Inter congress of the International Union of Anthropological and Ethnological Sciences, Croatia
-The 15th session of the Permanent Forum on Indigenous Issues of United Nations, USA
-National archives, UK
1. 研究課題について
本研究は、ボツワナのサン社会、南アフリカのサン社会、スワジランドのスワジ社会を対象としてI.土地権回復運動 II.伝統的政治代表者 III.民族文化観光などをめぐる現場で「伝統文化」や「民族的なもの」がいかに表出し、また再編されているのかを明らかにするものである。またそれによって地域社会の集団関係や政治参加、生業活動のありかたにどのような変化が生じているのかを考察することを目指している。それをとおして、南部アフリカのもつ歴史的背景や政治経済的状況のなかで共通して現れる「民族的なもの」の特質と、それぞれの対象コミュニティの特異性を国家形態や地域社会の中の位置づけの違いに注目して明確にしたい。
2. 派遣の内容
ケルン大学に滞在中は、数多くのセミナーや講義、シンポジウムなどに参加する機会を得るとともに、ケルン大学を拠点とする研究者らと議論を交わすことができた。とりわけアフリカ研究者であるペリカン博士とウィドロック博士とは、本研究課題にとって重要なトピックである、アフリカの少数民族の土地権をめぐる課題について継続的に議論をすることができた。またGSSCの講義シリーズには毎週参加し、私も“Contemporary dynamics of Social relationships and residential practices among the San hunter-gatherers in Central Kalahari”と題した講義をした。そのほか、大学院のセミナーや、様々なシンポジウム、ワークショップ、ドキュメンタリー上映会などにも、コメンテーターや議事進行役として招かれ、議論に参加した。
クロアチアで開催された国際人類学会(IUAES)では、“Ethnicity, territories and indigenous peoples: paradoxes and challenges of neoliberal policies”と題されたパネルで“Possibilities and Dilemmas of Indigenous Land Rights Movement of the San Hunter-gatherers: Comparison of Two Cases from Botswana and South Africa” というタイトルで発表した。このパネルでは、主として中南米、アジア、アフリカの先住民の問題にネオリベラリズムがどのように影響を与えているかを討論した。
つづいて訪れたニューヨークでは、国連の第15回先住民問題に関する常設フォーラムおよび関連のサイドイベントに参加した。フォーラムや関連会議での議論を追うとともに、主としてアフリカから参加していた先住民代表者に、土地をめぐる権利運動やリーダーシップの問題についてインタビューをした。
またイギリスでは国立公文書館を訪れ、植民地省の資料を調査し、ベチュアナランド(ボツワナ)保護領およびスワジランド保護領の「トライブ」に対する政策についての記録を収集した。
3. 派遣中の印象に残った経験や体験
ケルン大学のGSSCは非常に恵まれた研究環境であった。多くのアフリカ研究者と様々な議論を交わすことができ、また私の研究室のある建物には、グローバルサウスを研究対象とする数多くの若手研究者が集っており、彼らと意見交換も充実していた。とくにペリカン博士とは、アフリカの先住民が直面する問題についてあらゆる角度から議論を深めることができ、大変勉強になった。また、ケルンで活躍するサン研究者らとも会合を何度かもって、ボツワナとナミビアのサンに関する最新情報を交換することもできた。
また国連において、先住民代表らとの様々なことを話す機会を持てたことは、各々の民族や集団にとってグローバルな運動が持つ意味の実態を理解するうえで重要であった。とくに本研究がフォーカスをあてるボツワナ西部から参加したサンの代表者らへのインタビューによって、グローバルな運動と地元の動きがいかにつながっているかについて理解を深められたことが有意義であった。
4. 目的の達成度や反省点
今回の滞在では、本研究に対して、有意義なコメントや指摘をいただくことができたという点で、目的にかなったものであった。この間に、ボツワナの民族文化観光に関する小論と、先住民問題を扱う論集に掲載される論文の執筆も進んだ。またドイツと日本の間の研究教育ネットワークを構築することも重要な目的であったが、そのために多くの会議などに参加することで、関連する研究者と親しくなることもできた。国連とイギリスの公文書館で得られた資料は本研究にとって非常に重要なものであるが、その分析はまだ途上である。
5. 今後の派遣における課題と目標
今後は、ケルン滞在中に学んだことを生かして、南部アフリカでフィールドワークを進める。ボツワナと南アフリカでは、以前から調査を続けている地域を対象として研究進めるが、新たに調査を始めるスワジランドでは、フィールドワーク実施の可能性を探るところから始めなくてはならない。スワジランドにおける研究ネットワークの構築と調査地の選定が重要な課題となる。
IUAESの同じパネルで議論したメンバー