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第1回派遣(2015年度-2016年度)活動報告
 マダガスカルの保護森林地域における長期野外研究と生物多様性保全に関する研究

京都大学

アフリカ地域研究資料センター・特任研究員

市野 進一郎

派遣期間:2016年2月8日~5月2日

派遣先:ベレンティ保護区(マダガスカル共和国)

ドイツ霊長類センター(ドイツ連邦共和国)

 

1.研究課題について

アフリカ熱帯林における生物多様性保全は地球規模の環境問題として認識されるようになってきている。その中でもマダガスカルは、独自の生物相をもつことが知られており、生息する動植物の多くが固有種である。その独自性にもかかわらず、すでに森林の90%以上が消失したと推定されており、多くの動植物が絶滅の危険性が高い状況にある。このような状況から、マダガスカルは生物多様性のホットスポットと呼ばれる、保全の優先度の高い地域とみなされている。

近年の保護森林地域の拡大にもかかわらず、マダガスカルのいくつかの地域では、すでに多くの森林が断片化し、小規模な森林しか残されていない。こうした地域では、残された小規模森林をできるかぎり多く残すことで地域全体の生物多様性を保つのが現実的な保全戦略である。小規模な森林は特定の分類群が絶滅しやすい危険性がある一方で、厳正な保護や状況に応じた迅速な対応が可能という利点もある。小規模森林を残すことで生物多様性保全を実現するためには、小規模森林のその地域における潜在的リスクとともに、潜在的価値を明らかにする必要がある。

本研究では、長期野外研究と生物多様性保全の関係に着目する。霊長類学や生態学ではマダガスカルのいくつかの研究調査地で長期野外研究がおこなわれ、その活動が地域の生物多様性保全に貢献すると期待されている。こうした期待にもかかわらず、長期野外研究によるどのような活動や科学的知見が地域に生物多様性保全に貢献するかは明らかになっていない。それぞれの調査地において、この関係やその背景の状況を明らかにすることは、小規模森林の生物多様性保全にかかわる潜在的価値を高める方法の理解につながるだろう。

本研究では、20年以上にわたり長期野外研究がおこなわれてきた以下3つのマダガスカルの森林の事例をもとに、長期野外研究やそれに付随する活動が森林の生物多様性保全に果たす役割と課題を明らかにする。

 

1) ベレンティ保護区(マダガスカル南部、半落葉川辺林)

2) アンカラファンチカ国立公園(マダガスカル北西部、落葉乾燥林)

3) キリンディ森林(マダガスカル南西部、落葉乾燥林)

 

2.派遣の内容

(1)マダガスカル共和国(2016年2月9日~3月17日)

主調査地であるベレンティ保護区を訪問し、保護区管理者や近隣で活動するNGOスタッフと打ち合わせをおこなった。それと同時に保護区に生息するキツネザルの行動観察、生育する植物や動物のリスト作成、動植物の在来知識などに関する聞き取りをおこなった。

 

(2)ドイツ連邦共和国(2016年3月19日~5月1日)

マダガスカルでのフィールドワークの後、ニーダーザクセン州ゲッティンゲン市に移動し、ドイツ霊長類センター行動生態学・社会生物学/人類学ユニットに訪問研究員として所属した。そこでは、Kappeler教授とFichtel上級研究員とともに集団性キツネザルのメスの繁殖競合に関する共同研究を開始した。

 

3.派遣中の印象に残った経験や体験

2016年の派遣期間中(2月から3月)、マダガスカル南部は著しい干ばつに見舞われていた。この期間はマダガスカル南部の雨期に相当し、通常の年はマンジャレ川の水位は高いが、かなり干上がった状態にあった。このことから、この地域の生物多様性保全については気候変動も考慮に入れるべき要因であると実感した。

また、保護区の南端境界のすぐ隣で森林の消滅を観察した。ベレンティ保護区の一部(アナラマランギ森林)は別の所有者が所有するカレタ保護区と隣接していた。2016年3月に、この森林が完全になくなっているのを観察した(写真1)。地元住民によると、保護区が閉鎖されたあと、すべての樹木が薪炭材として伐採されたという。帰国後にこの地域の航空写真を確認したところ、2011年の画像では森林が残っていたが、2016年の画像では完全に消滅していた。このことから、少なくとも5年以内に消滅したことが分かった。このことによってこの地域では森林の消滅が現在も進行していることを強く実感した。

ドイツでは、ワオキツネザル(Lemur catta)とシロクロエリマキキツネザル(Varecia variegata)が野外飼育されている動物園Affenwald in Straussberg(テューリンゲン州ゾンダースハウゼン町)を訪問する機会があった(写真2)。ここでは、ドイツ霊長類センターの学生や研究員がキツネザル類の社会的学習に関する野外実験をおこなっているそうで、その現場を見られたことは良い経験となった。

 

図1

写真1. ベレンティ保護区隣接地の森林消滅

 

図2

写真2. 野外飼育動物園 Affenwald in Straussberg のキツネザル類

 

4.目的の達成度や反省点

ベレンティ保護区では保護区所有者であるClaire Foulonさんに会い、研究プロジェクトについて説明することができた。一方で、主要連携研究者であるアンタナナリヴ大学のRakotomanana教授の訪日時期と派遣者の渡航時期が重なってしまったため、アンタナナリヴ大学を訪問することはできなかった。そのため、Rakotomanana教授やFelix Rakotondraparany教授とはEメール等を通じて連絡を取り合った。

ドイツでは、Kappeler教授やFichtel博士と議論をおこない、国際共同研究の分析手法や日程について決定することができた。

 

5.今後の派遣における課題と目標

次回の派遣では、アンタナナリヴ大学理学部を訪問し、国際共同研究およびアフリカ地域研究資料センターとの学術交流協定に関する具体的な打ち合わせをおこなう予定である。