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第2回派遣(2016年度)活動報告
マダガスカルの保護森林地域における長期野外研究と生物多様性保全に関する研究

 

京都大学

アフリカ地域研究資料センター・特任研究員

市野進一郎

 

派遣期間:2016年8月29日~11月28日

派遣先:ベレンティ保護区、アンカラファンチカ国立公園(マダガスカル共和国)

 

1.研究課題について

アフリカ熱帯林における生物多様性保全は地球規模の環境問題として認識されるようになってきている。その中でもマダガスカルは、独自の生物相をもつことが知られており、生息する動植物の多くが固有種である。その独自性にもかかわらず、すでに森林の90%以上が消失したと推定されており、多くの動植物が絶滅の危険性が高い状況にある。このような状況から、マダガスカルは生物多様性のホットスポットと呼ばれる、保全の優先度の高い地域とみなされている。

近年の保護森林地域の拡大にもかかわらず、マダガスカルのいくつかの地域では、すでに多くの森林が断片化し、小規模な森林しか残されていない。こうした地域では、残された小規模森林をできるかぎり多く残すことで地域全体の生物多様性を保つのが現実的な保全戦略である。小規模な森林は特定の分類群が絶滅しやすい危険性がある一方で、厳正な保護や状況に応じた迅速な対応が可能という利点もある。小規模森林を残すことで生物多様性保全を実現するためには、小規模森林のその地域における潜在的リスクとともに、潜在的価値を明らかにする必要がある。

本研究では、長期野外研究と生物多様性保全の関係に着目する。霊長類学や生態学ではマダガスカルのいくつかの研究調査地で長期野外研究がおこなわれ、その活動が地域の生物多様性保全に貢献すると期待されている。こうした期待にもかかわらず、長期野外研究によるどのような活動や科学的知見が地域に生物多様性保全に貢献するかは明らかになっていない。それぞれの調査地において、この関係やその背景の状況を明らかにすることは、小規模森林の生物多様性保全にかかわる潜在的価値を高める方法の理解につながるだろう。

本研究では、20年以上にわたり長期野外研究がおこなわれてきた以下3つのマダガスカルの森林の事例をもとに、長期野外研究やそれに付随する活動が森林の生物多様性保全に果たす役割と課題を明らかにする。

  • ベレンティ保護区(マダガスカル南部、半落葉川辺林)
  • アンカラファンチカ国立公園(マダガスカル北西部、落葉乾燥林)
  • キリンディ森林(マダガスカル南西部、落葉乾燥林)

 

2.派遣の内容

マダガスカル共和国(2016年8月29日~11月28日)

主調査地であるベレンティ保護区を訪問し、保護区管理に関する調査をおこなった。それと同時に保護区に生息するキツネザルの行動観察、生育する植物や動物のリスト作成、動植物の在来知識などに関する聞き取りをおこなった。また、北西部のアンカラファンチカ国立公園を訪問し、調査地や研究者用調査基地の観察をおこなった。

 

3.派遣中の印象に残った経験や体験

今回、ベレンティ保護区には乾季後半に相当する9月から11月中旬まで滞在した。滞在した期間、保護区内の鳥類や爬虫類はとても活動的で、多くの種を直接観察することができた。地元の人々による森林性脊椎動物の分類の程度は、分類群によって大きく異なっていた。それはおそらく目にする機会とその動物に対する関心の程度の違いによるようだ。例えば、テンレック類や多くの鳥類は食物として、ヘビ類やカメレオンは危険な動物として地元の人々にみなされている。そのような動物の場合、人々は詳細な分類をしており、その種の特徴について詳しく言及していた。一方、小型のトカゲ類、カエル類、ネズミ類、食肉類や夜行性キツネザルについての分類は曖昧だった。

マンジャレ川の対岸に位置する村を訪問し、村や森林の様子を観察した(写真1)。村にはキツネザルにとって最も重要な採食樹種であるタマリンド(Tamarindus indica)が多く生育しており、そこでワオキツネザル(Lemur catta)を観察できた。地元の人々によると、ワオキツネザルとベローシファカ(Propithecus verreauxi)はしばしば村を訪れるという。これらのキツネザルは、村の近くの人為撹乱を受けた森林でも生存できるのだろう。

大学院生の綾仁さん、助教の佐藤さんとともに自動撮影センサーカメラを使った夜行性動物の予備的な調査もおこなった。コジャコウネコ(Viverricula indica)、ノネコ、イヌがカメラに記録された。カメラの記録から、少なくとも3頭のイヌがこの小規模森林に生息しており、昼も夜も活動していることがわかった。今後は、イヌ(写真2)が保護区の野生動物群集に与える影響についてより詳細な研究が必要になるだろう。

 

4.目的の達成度や反省点

アンタナナリヴ大学理学部を訪問し、主要連携研究者であるRakotomanana教授、Rakotondraparany准教授と面会し、新たな国際共同研究およびアフリカ地域研究資料センターとの学術交流協定に関する打ち合わせをおこなうことができた。

ベレンティ保護区の森林性脊椎動物のリストを、在来知識に関する情報も含めて作成した。現在、その報告についての草稿を準備中である。一方、無脊椎動物と植物については種数が膨大でリストの完成まで至っていない。

 

図1

写真1. マンジャレ川の対岸の村

 

図2

写真2. マダガスカル南部の犬

 

5.今後の派遣における課題と目標

次回の派遣から、アンタナナリヴ大学理学部に所属する大学院生との共同研究を開始する予定である。また、アフリカ地域研究資料センターとの学術交流協定締結に向けた話し合いをおこなう予定である。