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南アフリカ報告
―ケープタウン大学とローズ・フォーラムを中心に―

 

京都大学大学院

アジア・アフリカ地域研究研究科・准教授

高田 明

 

平成29年11月21日から11月28日にかけて,おもに南アフリカのケープタウン大学,およびローズ大学を訪問し,本プロジェクトの企画・運営に関する資料収集,研究発表,意見交換を行った.

ケープタウン大学では,まず本研究のカウンターパートとなるケープタウン大学アフリカ言語多様性研究センター(CALDi)を訪問するとともに,頭脳循環プログラム・アフリカ地域研究パラダイム再編およびアフリカ狩猟採集民の研究に関する資料収集を行った.さらに,本プログラムにおけるケープタウン大学の連携研究者であるFrancis B. Nyamnjoh博士(社会人類学部・教授)とグローバル化にともなうアフリカ地域研究パラダイム再編に関する研究打ち合わせを行った(写真1).

 


写真1 ケープタウン大学・社会人類学部にて,Francis B. Nyamnjoh教授(右)と報告者.

 

Nyamnjoh博士は,カメルーンで生まれ,ヤウンデ大学で学士号と修士号を取得した後,英国のレスター大学で博士号を取得した.その後カメルーンやボツワナの大学に奉職し,2009年からはケープタウン大学で社会学,社会人類学,コミュニケーション論に関する教育・研究に携わってきた.Nyamnjoh博士のポスト植民地主義時代におけるアフリカの人々のアイデンティティや間主観性,市民社会論に関する厖大な研究業績は,アフリカ大陸はもとより欧米や我が国でも非常に高く評価されており,現代のアフリカ大陸を代表する知性であるといえる.今回の研究打ち合わせでは,これまでに京都大学からケープタウン大学に派遣された若手研究者等の近況,および本プログラムをさらに発展させて,個々の研究者間,さらにはケープタウン大学と京都大学の学問的交流を一層盛んにしていくための具体的な提案や調整を行った.

続いて訪問したローズ大学では,同地で開催されたローズ・フォーラムへ参加し,アフリカの人々の教育史に関する研究発表を行うとともに,同フォーラムの出席者らと意見交換および頭脳循環プログラム・アフリカ地域研究パラダイム再編に関する情報収集を行った.ローズ大学は南アフリカを代表する名門大学の1つであり,東ケープ州の閑静な街であるグラハムズタウンに位置する.今回の訪問では,ローズ大学人文学部のMichael Neocosmos教授や京都大学文学研究科の松田素二教授らが主催したローズ・フォーラム(7th African Forum)へ出席した(写真2,3).ローズ・フォーラムは,現代のグローバルな諸問題に対処していくためのアフリカの潜在力について議論を深めることを目指してアフリカ大陸の各地で開催している連続フォーラムの一環で企画されたもので,その主旨は本プログラムのそれとも大いに通じるところがある.報告者は,The medium of instruction in north-central Namibia in colonial timesというタイトルで,南アフリカの非白人,ナミビア北中部のオバンボ,同地域のオハングエナ州のサンに対する教育媒介言語をめぐる制度と実践の歴史に関する研究発表を行った.このフォーラムでは,ケープタウン大学,ローズ大学,ケニアの国連国際大学,ウガンダのマケレレ大学,ナミビア大学,ボツワナ大学,京都大学,大阪大学,津田塾大学,立教大学などに所属する優れた若手やベテランの研究者が一堂に会し,各人の研究発表に基づいて集中的に議論を行った.これによって,アフリカの教育制度,在来知の活用,宣教団の歴史的役割,現代の都市問題,外国人排斥問題,少数民族・先住民問題などに関してきわめて有益な情報やこれから研究を推進していく上での示唆を得ることができた.

 


写真2 ローズ大学の人類学部,社会学部,産業社会学部の建物を示す看板.

 


写真3 ローズ・フォーラムの様子.スクリーンの手前で発表を行っているのはMichael Neocosmos教授.

 

今回のケープタウン大学およびローズ大学の訪問は,本プログラムが目指す,アフリカと我が国の学術界の包括的なアカデミック・パートナーシップ体制を確立すること,さらにグローバル状況下におけるアフリカや日本を始めとした現代社会の持続的な発展に向けた実践的研究を推進していくことに大きく資するものであった.これを受けて,アフリカ地域研究に関する教育研究ネットワークの構築をさらに推進していく予定である.