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フランス,ナミビア報告
―EHESS,ウインドフック,オハングエナ地域―

 

京都大学大学院

アジア・アフリカ地域研究研究科・准教授

高田 明

 

平成29年9月15日から10月1日にかけて,おもにフランスの社会科学高等研究院(EHESS),およびナミビアのナミビア国立資料館とオハングエナ地域を訪問し,本プロジェクト「グローバル化にともなうアフリカ地域研究パラダイム再編のためのネットワーク形成」の企画・運営に関する研究打ち合わせおよび資料収集を行った.

本研究のカウンターパートであるEHESS(写真1)では,まず主要連携研究者のFrédéric Joulian准教授,連携研究者のRemy Bazenguissa-Ganga教授,Eloi Ficquet准教授,Emmanuelle Kadya Tall上級講師らとグローバル化にともなうアフリカ地域研究パラダイム再編に関する研究打ち合わせを行った.とりわけ,平成29年12月1日~12月3日に京都大学とEHESSが共同開催する予定になっているアフリカ地域研究パラダイム再編に関する国際シンポジウム“France-Japan Area Studies Forum”について,具体的な発表者とその発表内容,ロジスティックの役割分担などについて打ち合わせを行った.

 


写真1 フランスの社会科学高等研究院(EHESS).

 

EHESSは,フランスを代表する社会科学研究拠点であり,なかでもフランス語圏アフリカについての研究は,世界的にきわめて高い評価を受けている.京都大学との間ではすでに大学間学術協力協定を締結している.ASAFAS,CAASはこれまで,EHESSから歴史学・人類学など地域研究関連分野からの客員教員を招へいし,国際会議のパネルを共催した等の実績がある.また平成29年度の10月には,約1ヶ月間にわたって連携研究者のRemy Bazenguissa-Ganga教授をASAFAS,CAASに招へいし,国際シンポジウムについてのさらに具体的な打ち合わせを行うとともに,アフリカにおけるグローバル化に関する共同研究に関する共同研究を推進する予定である.

続いて訪問したナミビアでは,まずアフリカ地域研究に関しては同国最大規模の資料を有するナミビア国立資料館において,アフリカ地域研究パラダイム再編,とくにナミビアの独立以降の土地政策や教育政策に関する資料収集を行った.さらに,ケルン大学のThomas Widlok教授およびケープタウン大学のMatthias Brenzinger所長らと進める共同研究の一環として,北中部のオハングエナ地域で土地政策や教育政策に関する資料収集を行った.ナミビア北中部は,同国のマジョリティであり,農耕と牧畜を主な生業としてきたオバンボの中心地だが,この地域にもっとも早くから住んでいたのは狩猟採集民として知られるサンである.その後,この地域にはオバンボやフィンランドをはじめとする欧州からの宣教団など,さまざまな人々や組織が台頭し,サンはこうしたアクターとユニークな関わりの歴史を築いてきた.本研究プロジェクトでは,約半世紀にわたるサン研究の歴史を持つ京都大学の研究者,ナミビアにおける社会・文化人類学,アフリカ研究,歴史学,言語学,メディア科学などの分野で傑出した業績を上げてきたケルン大学の研究者,アフリカにおけるサンの言語学,文献研究,アクションリサーチの中心的な拠点であるケープタウン大学の研究者,現地でサンの生活をサポートする諸機関などが協力しながら,同地域のサンの歴史,社会,文化的な特徴の変遷を探る共同研究を推進している.
今回の滞在では,まずオハングエナ地域第2の街であるオコンゴで,ナミビア独立以降のサンの再定住化活動・開発活動を推進するにあたって中心的な役割を担ってきた土地・再定住省のオフィスを訪問し(写真2),現在サンを対象として進められている再定住化活動・開発活動の現状と問題点についての意見交換を行った.

 


写真2 オコンゴにある土地・再定住省のオフィスに掲げられていた,サンの定住化プロジェクトに関するプレート.

 

さらに,宣教団が設立し,現在はナミビア政府のサンの定住化プロジェクトのプロジェクト・サイトとなっている,エコカ村周辺でサンの土地政策や教育政策の現状に関する視察を行った.報告者はこのエコカ村で長年フィールド調査を行ってきた.今回の訪問では,この調査を通じて関わってきた旧知の友人との再会を果たすことができた(写真3).

 


写真3 エコカ村に住むサンの人々.

 

こうした日本,欧州,アフリカの研究機関,現地でサンの生活をサポートする諸機関,地域住人などが協力しながら長期間にわたって行っている共同研究をさらに推進することは,サン研究に新たかつ重要な知見をもたらすだけではなく,サンの人々が抱えるさまざまな社会問題を打開するために貢献し,さらには従来のアフリカ地域研究のパラダイムを刷新することにつながると考えられる.