南アフリカ,ナミビア報告
―ケープタウン大学とオハングエナ地域を中心に―
京都大学大学院
アジア・アフリカ地域研究研究科・准教授
高田 明
平成27年12月17日から平成28年1月6日にかけて,おもに南アフリカのケープタウン大学,およびナミビアのオハングエナ地域を訪問し,本プロジェクトの企画・運営に関する研究打ち合わせおよび資料収集を行った.
ケープタウン大学では,まず本研究のカウンターパートとなるケープタウン大学アフリカ言語多様性研究センター(CALDi)で,Matthias Brenzinger所長,Sheena Shah研究員らとグローバル化にともなうアフリカ地域研究パラダイム再編に関する研究打ち合わせを行った(写真1).
写真1 Matthias Brenzinger所長(右)とSheena Shah研究員.寄り添っているのはCALDiの公用車.
ケープタウン大学は,アフリカ大陸を代表する研究・高等教育機関であり,学問,経済,政治など幅広い分野でアフリカを代表するような優れた人材を輩出し続けている.また,本研究を進めていく上で貴重かつ重要な研究資料を所蔵している.とりわけ,サンの言語や民話に関する研究のパイオニアであるWilhelm Bleek(1827-75年)らが収集した資料を大量に保存していることは特筆に値する(写真2).
写真2 ケープタウン大学の資料館でWilhelm Bleek(1827-75年)らが収集した資料を閲覧する報告者.
CALDiのMatthias Brenzinger所長は,コイサン諸語を対象とする著名な言語学者で,これらの資料を用いた文献研究,およびナミビアや南アのクエ-アニ,コマニを対象とした身体的・言語的コミュニケーションに関する研究を推進してきた.今回の研究打ち合わせでは,京都大学からケープタウン大学に派遣する予定の若手研究者の受け入れ条件や期待される活動内容,およびケープタウン大学から京都大学へ研究者を招聘する際の受け入れ条件や期待される活動内容について具体的な提案や調整を行った.ケープタウン大学ではしばしば各種の学科,学部を横断してアフリカを対象とする言語学,人類学,地域研究に関する各種のセミナーやシンポジウムが行われており,京都大学から派遣された若手研究者や担当研究者がこれらに参加することで非常に有意義な学問的交流が期待できる確信を得た.
続いて訪問したナミビアでは,Matthias Brenzinger所長らと進める共同研究の一環として北中部のオハングエナ地域でアフリカ地域研究パラダイム再編に関する資料収集を行った.ナミビア北中部は,同国のマジョリティであり,農耕と牧畜を主な生業としてきたオバンボの中心地である.じつは,ナミビア北中部にもっとも早くから住んでいたのは狩猟採集民として知られるサンである.その後,この地域にはオバンボやフィンランドをはじめとする欧州からの宣教団など,さまざまな人々や組織が台頭してきた.サンはこうしたアクターとユニークな関わりの歴史を築いてきた(写真3, 4).
写真3 宣教団が開拓し,現在は政府が管理する広大な農場でトウジンビエの播種を行うサンの人々.
写真4 臼と杵を使って収穫されたトウジンビエを製粉しているサンの少女たち.
しかしながら初期のサン研究では,研究者が純粋に狩猟採集による生活を明らかにしようとしてできるだけ外部世界の影響を受けていないサンを追い求めたため,ナミビア北中部のサンが独自の研究対象となることはほとんどなかった.したがって,従来の研究史およびさまざまなアクターとの複雑な関係史を見すえた上でサンの言語,文化,生活に関する知見を再考していく試みは,従来のアフリカ研究のパラダイムを刷新することにつながると考えられる.本研究プロジェクトでは,約半世紀にわたるサン研究の歴史を持つ京都大学の研究者と,アフリカにおけるサンの言語学,文献研究,アクションリサーチの中心的な拠点であるケープタウン大学の研究者,現地でサンの生活をサポートする諸機関などが協力しながら,こうした試みを推進していく予定である.