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第3回派遣(2016年度)活動報告
 マダガスカルの保護森林地域における長期野外研究と生物多様性保全に関する研究

 

京都大学 アフリカ地域研究資料センター・特任研究員

市野進一郎

 

派遣期間:2017年1月18日~3月28日

派遣先:キリンディ森林、ベレンティ保護区(マダガスカル共和国)

 

1.研究課題について

アフリカ熱帯林における生物多様性保全は地球規模の環境問題として認識されるようになってきている。その中でもマダガスカルは、独自の生物相をもつことが知られており、生息する動植物の多くが固有種である。その独自性にもかかわらず、すでに森林の90%以上が消失したと推定されており、多くの動植物が絶滅の危険性が高い状況にある。このような状況から、マダガスカルは生物多様性のホットスポットと呼ばれる、保全の優先度の高い地域とみなされている。

近年の保護森林地域の拡大にもかかわらず、マダガスカルのいくつかの地域では、すでに多くの森林が断片化し、小規模な森林しか残されていない。こうした地域では、残された小規模森林をできるかぎり多く残すことで地域全体の生物多様性を保つのが現実的な保全戦略である。小規模な森林は特定の分類群が絶滅しやすい危険性がある一方で、厳正な保護や状況に応じた迅速な対応が可能という利点もある。小規模森林を残すことで生物多様性保全を実現するためには、小規模森林のその地域における潜在的リスクとともに、潜在的価値を明らかにする必要がある。

本研究では、長期野外研究と生物多様性保全の関係に着目する。霊長類学や生態学ではマダガスカルのいくつかの研究調査地で長期野外研究がおこなわれ、その活動が地域の生物多様性保全に貢献すると期待されている。こうした期待にもかかわらず、長期野外研究によるどのような活動や科学的知見が地域に生物多様性保全に貢献するかは明らかになっていない。それぞれの調査地において、この関係やその背景の状況を明らかにすることは、小規模森林の生物多様性保全にかかわる潜在的価値を高める方法の理解につながるだろう。

本研究では、20年以上にわたり長期野外研究がおこなわれてきた以下3つのマダガスカルの森林の事例をもとに、長期野外研究やそれに付随する活動が森林の生物多様性保全に果たす役割と課題を明らかにする。

 

  • ベレンティ保護区(マダガスカル南部、半落葉川辺林)
  • アンカラファンチカ国立公園(マダガスカル北西部、落葉乾燥林)
  • キリンディ森林(マダガスカル南西部、落葉乾燥林)

 

2.派遣の内容

マダガスカル共和国(2017年1月18日~3月28日)

最初に、連携機関であるドイツ霊長類センターがフィールド・ステーションを管理するキリンディ森林(写真1)を訪問し、調査区域やフィールド・ステーション(写真2)の観察をおこなった。

 

写真1.キリンディ森林入り口

 

写真2. キリンディ森林のフィールド・ステーション

 

その後、主調査地であるベレンティ保護区に移動し、連携機関であるアンタナナリヴ大学修士課程学生Perline Ranomenjanaharyさんとともに、保護区に生息するキツネザルの行動観察、生育する植物や動物のリスト作成、動植物の在来知識などに関する聞き取りをおこなった(写真3)。また、自動撮影カメラを使った夜行性動物の調査もおこなった。

 

写真3. ベレンティ保護区における国際共同研究の様子

 

3.派遣中の印象に残った経験や体験

報告者は、乾季である10月にキリンディ森林を訪問したことがあるが、雨季である今回は森林の印象が全く異なっていた。乾季には観察路で容易に見られた食肉類フォッサ(Cryptoprocta ferox)の糞が全くなく、姿も直接観察できなかった。

ベレンティ保護区が位置するマダガスカル南部は5年ほど旱魃の年が続いていたが、久しぶりに十分な降水量のある雨季となった。そのため、キツネザルが利用できる森林内の果実が豊富で昨年とは全く違う印象だった。

約1ヶ月半の期間、自動撮影カメラを森林内5箇所に設置した結果、3箇所でコジャコウネコ(Viverricula indica)、2箇所でノネコ、1箇所でイヌが記録された(写真4)。コジャコウネコとノネコは、サギ類のコロニーの下で頻繁に記録された。巣から落下したと思われるサギ類の幼鳥も記録された。サギ類のコロニー下は、落下した幼鳥や卵に食肉類が引き寄せられるホットスポットとなっている可能性がある。また、チャイロキツネザルのメスが単独で地上を探索している様子が多く記録された。この個体は落下したサギ類の卵を探索していた可能性がある。森林内のトレイルにもカメラを設置したが、1頭も記録されなかった。森林内のトレイルは障害物がないため、多くの動物に利用されていると考えていたため、この結果は意外であった。また、落下果実が多く残っている場所にもカメラを設置した。ワオキツネザルとチャイロキツネザルが記録された。特に興味深かったのは、樹上性の傾向が強いと思われているチャイロキツネザルも頻繁に地上に降りて採食していたことである。

 

写真4. 自動撮影カメラで撮影されたコジャコウネコ(Viverricula indica

 

4.目的の達成度や反省点

連携機関であるアンタナナリヴ大学との新たな国際共同研究を開始することができた。アフリカ地域研究資料センターとの学術交流協定については、他部局(理学研究科やアジア・アフリカ地域研究研究科)が参加する予定で、調整にもう少し時間がかかりそうである。

前回から引き続き、保護区に生息する脊椎動物について地域住民から情報を収集した。この結果をまとめた、脊椎動物の多様性と在来知識に関する論文を国際学術雑誌African Study Monographsに投稿した。前回に引き続き、無脊椎動物や植物に関する情報も収集したが、数が膨大でまだ完全なリスト化までは至っていない。

5.今後の派遣における課題と目標

次回の派遣では情報が不足している保護区の植生と植物の在来知識に関するデータ収集を集中的におこなう予定である。