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頭脳循環プログラム派遣報告書(マダガスカル)

 

京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科

助教・佐藤宏樹

 

2018年2月19日から3月19日にかけて、研究会議、学術交流協定締結、および現地調査を目的としてマダガスカル共和国に出張した。なお、本プログラムでは2月19日から3月3日にかけて活動を実施し、翌3月4日から3月19日にかけては他のプログラムに基づいて活動を行った。

 

1.本プロジェクトの研究成果に関する会議

2月20日にマダガスカルに入国した翌日から2日間にわたり、アンタナナリヴ大学理学部動物学・生物多様性学科(Department of Zoology and Animal Biodiversity, Faculty of Sciences, University of Antananarivo)のHajanirina Rakotomanana教授とFelix Rakotondraparany准教授を訪問し、2015年度以降に共同で取り組んできた頭脳循環プログラム「グローバル化に伴うアフリカ地域研究パラダイムの再編」におけるこれまでの成果について話し合った。

 

写真1. 2016年度にアンカラファンツィカ国立公園で共同研究を実施した
アンタナナリヴ大学および京都大学の大学院生を含む調査チームのメンバー

 

まず大きな成果として挙げられるのは、アンタナナリヴ大学および京都大学の学生の相互派遣と共同研究の実施である。市野進一郎研究員が調査を行ってきたマダガスカル南部のベレンティ私設保護区では2016年度からRakotondraparany准教授が指導するアンタナナリヴ大学理学研究科修士課程の大学院生を受け入れ、市野研究員と共同でワオキツネザル(Lemur catta)の社会行動に関する研究が行われた。今回の会議では、該当する院生は2018年2月に修士論文を提出したとの報告を受けた。一方、報告者が調査を行ってきたマダガスカル北西部のアンカラファンツィカ国立公園では2015年度からRakotomanana教授が指導する博士課程の大学院生を受け入れ、報告者と共同でチャイロキツネザルの行動生態および保全に関する研究がおこなわれている。同院生は京都大学の推薦による国費留学生として2017年10月から本学のアジア・アフリカ地域研究研究科に研究生として所属し、2018年度からは同研究科の3年次編入生として在籍することが決定している。またASAFASからは、2016年度から大学院生1名をアンカラファンツィカ国立公園に派遣し、食肉目の在来種および外来種の保全生態学研究を行っている。この2つの調査地とも1989年から京都大学が長期に研究を展開してきた。こうした既存の調査地を活用しながら、今後もアンタナナリヴ大学と共同で研究と大学院教育を拡充させていくことを確認した。

次に成果として挙げられたのは、2017年12月に京都大学で行われた「フランス-日本 地域研究フォーラム」におけるマダガスカルでの共同研究に関する発表である。市野研究員が企画者となってRakotomanana教授とRakotondraparany准教授をマダガスカルから招へいし、さらに報告者が指導する既述のマダガスカル人留学生とともに長期野外調査と生物多様性保全への貢献に関する報告を行った。京都大学によるアプローチの特徴は、同じ研究者が長期にわたって同じ地域で研究を継続することである。そのため、ベレンティ保護区やアンカラファンツィカ国立公園ではすでに現地の人々との信頼関係が構築されている。ここで生物学研究を展開してきた同調査チームが地域研究によるアプローチを取り込むことにより、生物資源の持続的な利用と保全に向けて研究者と住民、保護区の管理者が共同で取り組む学際的かつ実践的な共同研究チームへと再編することが可能であると示唆された。今回の会議でもこの点を再確認し、今後のチーム編成や研究計画等について話し合った。

 

写真2. 2017年12月に開催されたフランス-日本 地域研究フォーラムでマダガスカルの研究について報告を行ったメンバー

 

2.学術交流協定の締結

本プロジェクトで上記のように実施した共同研究を今後も発展させるために、2017年度の前期からアンタナナリヴ大学理学研究科および京都大学の3部局(アジア・アフリカ地域研究研究科、アフリカ地域研究資料センター、理学研究科)との間で学術交流協定の締結に向けて協議し、12月には各部局での会議を経て合意に至っていた。2018年2月21日に報告者がRakotomanana教授、Rakotondraparany准教授と共にアンタナナリヴ大学理学研究科長Marson Raherimandimby教授を訪問した。本プログラムにおける成果をRaherimandimby研究科長に紹介したのち、協定書への調印を受けて正式な学術交流協定の締結に至った。今回の締結によって、さらに活発な研究者および学生の交流とより多様な学術分野での共同研究の実施が期待できる。

 

写真3. アンタナナリヴ大学と京都大学の4部局間芸術交流協定の締結、左からH.Rakotomanana教授、
報告者、M.Raherimandimby研究科長、F.Rakotondraparany准教授

 

3.アンカラファンツィカ国立公園における野外調査

2月23日にレンタカーで首都のアンタナナリヴから北西部のアンカラファンツィカ国立公園に移動し、野外調査を実施した。昨年の調査(2016年2~3月)では、報告者がこれまで行ってきたチャイロキツネザル(Eulemur fulvus)による種子散布機能についての研究を「地域研究」としてパラダイム再編させるべく、とくに植物生態学、保全生物学、および民族植物学アプローチを取り入れた展開を見出していた。今回の野外調査では特に民族植物学研究を進展させることを目的とした。

 

写真4. アンカラファンツィカ国立公園に広がる熱帯乾燥林は有用植物の宝庫である

 

昨年と同様に、アンカラファンツィカ国立公園内に居住する住民を対象に半構造化インタビューと資源利用の現場の観察を通じて、有用植物の種類とその活用方法に関する在来知のデータを収集した。さらに今回は、国立公園の中で最も植物に詳しいガイド、および村で伝統的な医療を行う呪医と共に森林に入り、実際に生育する植物を観察しながらその活用法に関するレクチャーを受けた。在来知に基づく植物の有用性に対する認識は、化学成分や物理的特性などの科学知と一致していると予測されるものが多く含まれていた。チャイロキツネザルの種子散布によって個体群が更新されている可能性がある有用植物も少なくなかった。また、ローカルな利用だけでなく、都市部や海外における大規模な市場でも利用される有用植物も確認できた。近年、首都や州都などの都市部ではマダガスカルの固有植物に由来する成分を含む化粧品類を販売する企業が増えている。これらの企業は空港やインターネットでの通販を介して、海外の消費者にも購入することが可能になっている。こうした有用植物利用のグローバル化は生産地における森林生態系や地域社会に対して大きく影響しうると考えられる。今回の調査で頭脳循環プログラムでの研究は終わるが、パラダイム再編で見出した新たな研究課題に対しては、より学際的な研究プロジェクトを新規に企画し、アンタナナリヴ大学との学術交流協定を活用しながら実施しようと考えている。

 

写真5. アンカラファンツィカ国立公園のガイドで最も植物に詳しいJ. Rakotoroa氏

 

写真6. アンカラファンツィカ国立公園内の村に住む呪医(左)から有用植物に関する情報を収集する